MALLOW COLLECTION 2026 身体で世界を感じる
MALLOW
COLLECTION 2026
身体で世界を感じる
インタビュー(第1回)聞き手:&MEDICAL
MALLOW 2.0の新製品発表と合わせて、現在、DESIGNART TOKYO 2026への出展として、MALLOW COLLECTION 2026 の展覧会が開催されています。今回のコラムでは、全4回にわたり、MALLOWのデザインや展覧会に込めた思い、そして参加アーティストそれぞれの創作の背景をご紹介します。
第1回は、プロダクトデザイナーであり &MEDICALのデザインディレクターでもある橋倉 誠さんにお話を伺いました。
自然と生まれたかたち
―― まず、MALLOWが生まれた背景についてお聞かせください。オーバル型のバランスボールという形にたどり着いたのは、どのような考えからだったのでしょうか?
橋倉: MALLOWのデザインを提案したのは、2021年、ちょうどコロナ禍で急速にテレワークが普及した頃でした。運動の機会が減った生活の中で、フィットネスを兼ねたワークチェアをつくれないかと考えたんです。座りやすく、転がらず、省スペースでも使える新しいバランスボールのアイコンとして提案したのが、今よりも少し角張ったマシュマロや米俵のような形でした。
でも、その形を実現するのが結構難しくて。何度も試行錯誤を重ね、ようやく完成した試作モデルは、最初のイメージとは少し異なる、丸みを帯びた形になっていました。空気の張りによって自然と生まれた、予期せぬ形だったのですが、それがとても可愛らしくて。実際に座ってみると、いい感じでしっくりきたんです。「これでいきましょう」と。そうして、今のオーバル型の原型が生まれました。

―― それから、だんだんとこのオーバル型のMALLOWが認知されてきて、最近では、自宅での使用だけでなく、オフィスのミーティングスペースやリフレッシュスペースなどのチェアとしてご利用いただくシーンも増えてきました。
橋倉:そうですね。PC作業でデスクに向かうと、どうしても長時間座りっぱなしになってしまいますよね。そんな時、気分転換にMALLOWに座って、身体を動かすと、いいアイデアが浮かんだりすることがあります。
ミーティングテーブル用のチェアとして、MALLOWに座って、弾みながら人と会話したり、ブレストしたりすると、不思議とお互いの気持ちが近くなるような気がするんですよね。MALLOWを介して、スキンシップに近いコミュニケーションをしているような感覚というか。
オフィスの空間デザインも従来のかたちから変化してきていますが、リフレッシュしたり、自然な会話や交流が生まれる場が、MALLOWによって生み出されると嬉しいですね。

転がらず、
自然と起き上がる新機能
―― 今回、そのMALLOWが、約5年ぶりにMALLOW 2.0へと進化しました。
橋倉: はい。新しいMALLOWには、傾いても自然と起き上がる、起き上がりこぼしのような機能が加わりました。転がっていかないというメリットだけでなく、座ったときの安定感が増して、重心の移動が少なくなるので、心地よく体幹に働きかけてくれます。
試作モデルが出来上がって実際に座ってみると、自然と元の姿勢に戻ろうとする動きに、どこか生き物のような愛嬌があって。なんだか動物にまたがっているような感覚もありました。単に安定性が増したというだけでなく、もの自体が何か意思を持っているようにも感じられたんです。そこで、動物の毛のようなふわふわのカバーで覆ったら、面白い体験を生み出せるかもしれないと思ったんです。毛皮のバランスボールを作ってみようと。それが、MALLOW COLLECTIONの企画を考えたきっかけです。
MALLOW COLLECTION 2026

―― MALLOW COLLECTION 2026 についてお聞かせください。
橋倉: MALLOW 2.0では、カバーも進化しています。縫い目のないホールガーメントのニットを採用し、簡単に着脱できる仕様になりました。質感や手触りにもこだわり、幅広いバリエーションを揃えています。今回、その新製品の発表に合わせて、ニット以外にもさまざまな素材のカバーを実験的に制作し、限定のアートピースとして一緒にお披露目しようと考えました。
MALLOWのファッションショーのようなイメージですね。
―― なるほど。それで「MALLOW COLLECTION」なんですね。
橋倉: そうなんです。衣服のようにプロダクトを覆う「表皮」の部分をテーマにしてみようと。
動物の毛のような柔らかなファーだったり、自然素材や日常で使われている工業的な素材だったり。同じオーバル型の形でも「表皮」の素材が変わることで、それぞれに異なる感触や体験が生まれるのではないかと考えました。

Void Skin/空洞の表皮
―― 展覧会には「Void Skin/空洞の表皮」というテーマがあります。この言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか?
橋倉: バランスボールは、空気を包み込んだ、いわば空洞のような存在です。空洞があるということは、そこに内側と外側を隔てる境界があるということです。その境界が表皮なんですね。MALLOWの場合、内部の空気の圧力と表皮の張力が釣り合うことで、ひとつの形が生まれています。つまり、形というものは、それ自体が独立して存在しているのではなく、素材の性質や内部の力、周囲の環境との関係によって生まれているんですね。
人間の身体も同じように、皮膚という境界を持っています。そして、手で触れたり、身体を動かしたりすることで、外の世界を感じています。
僕たちは身体を通して世界を知覚していますが、同じものを見たり触れたりしても、人によって感じ方は違います。
「環世界(Umwelt)」という、生物学者ユクスキュルが提唱した概念があります。すべての生物が同じひとつの環境を経験しているのではなく、それぞれの生物が持つ感覚や身体のあり方によって、異なる世界を生きているという考え方です。
僕たちが経験している世界も、外側にある世界をそのまま受け取っているわけではなく、それぞれの身体の感覚を通して、自分自身の内側に立ち上がっているものなのかもしれません。そして、身体の感覚次第で、その世界はもっと豊かに変わっていく可能性がある。
「Void Skin」という言葉には、そんな考えも込めています。
―― MALLOWに座ったときや触れたときの感覚も、人それぞれ違っていて、その人の内側に立ち上がる、かけがえのない体験とも言えますね。
橋倉: そうですね。今回は、MALLOWをひとつのプロダクトとして見るだけではなく、形や素材、そして身体との関係を探求するための媒体として捉えています。実験的で自由な表現を通して、普段のプロダクトデザインでは見えてこない可能性を発見したいと思いました。
素材から立ち上がる感覚

―― こちらのピンクのファーの「monster」が、先ほどお話しされていた最初のアイデアを形にした作品なんですね。
橋倉: そうですね。実際にファーで覆ってみると、なんだか不思議な存在になりました。
ふわふわした毛並みに触れたり、身体で押したりすると、ゆっくりと起き上がってくる。単なる椅子でも、ぬいぐるみでもない、何か得体の知れない生き物と触れ合っているような感覚がありました。それで「monster」と名づけたんです。
ピンクは、普段の製品ではあまり使う機会のない色ですが、今回はこの色を使ってみたくなりました。
展示では、ライトブラウンのファーを使った「animal」という作品も制作しました。こちらは座ってみると、ゴールデンレトリバーのような大型犬にまたがっているような感覚になるんです。

―― こちらの黒いレザーの作品は、バッグのようにも見えますね。
橋倉: 「空気を入れた鞄」という作品ですが、本革のバッグをMALLOWのカバーにしました。鞄に空気を入れて、ぱんぱんに膨らませると、バランスボールになる。バランスボールだけど、「空気を運ぶ鞄」でもある。
鞄って、そもそも「空洞の表皮」ですよね。MALLOWと構造的によく似ているんです。鞄に空気を詰め込むという行為が、ちょっとユーモラスで面白いなと思って、作品にしてみたんです。
ぶらんと下がったレザーの持ち手やファスナーも、鞄らしさのディテールとしてあえて残しました。バランスボールの本体を取り出すと、そのままバッグとしても使えて、空気が抜けてペシャンコになった形も意外と魅力的なんです。



―― こちらの青いゴミ袋を使った作品も面白いですね。
橋倉: これはスウェーデンで使われているゴミ袋なんです。くすんだブルーの色と、ビニール特有の艶感がとても気に入って、以前、青山のFound MUJIで購入したものです。
実は、袋として使うこともなくずっと事務所に飾ってあったんですよね。それを今回、MALLOWに被せてみたら、サイズがぴったりで(笑)。
ゴミ袋でもカバーになるなあと。普段、何気なく使われている素材や日用品も、よく見てみると、それぞれに独特の佇まいがあって、僕にはとても美しく見えてくるんです。
―― どの作品も、素材との出会いや、実際に手を動かす中で生まれた発見があるんですね。
橋倉: そうかもしれませんね。あまり最初から概念を決めるのではなく、直感的に思いついたことを試しているんです。
実際に素材に触れたり、手を動かしたりしていると、自分でも予想していなかった形が生まれたり、それまで意識していなかった素材の魅力に気づいたりすることがあります。
そうした発見の積み重ねが、制作の面白さだと思います。
身体で世界とつながる
―― 橋倉さんは、以前からデザインを行う上で「身体で感じるよろこび」を大切にされていますよね。今回の展覧会にも通じるものを感じますが、そこにはどのような思いがあるのでしょうか?
橋倉: 僕たちは普段、目で見たり、頭で理解したりすることに偏りすぎているように思います。でも、人間は本来、身体全体を使って世界を感じているはずなんですよね。
例えば、海に入って波の力を感じたり、太陽の光を肌で感じたり、バッタの後ろ脚の力強さや生命感を指先で感じたり。そういうときには、言葉では説明しきれないような感覚やよろこびがあるんですよね。
身体を通して世界とどうつながるか。その質量というか、自分の外側に確かに何かが存在しているという実感を、どう感じ取るか。
デザインも、僕にとってはそうした世界とのつながり方を探る、ひとつの方法なのかもしれません。
―― 最後に、今回のインタビューではアーティストの皆さんにも共通してお聞きするのですが、橋倉さんにとって「健やかな暮らし」とは、どのようなものでしょうか?
橋倉: 健やかであるということは、単に病気をしないとか、身体が健康であるということだけではないと思っています。
もちろん、身体の健康は大切ですが、それと同じくらい、自分の感覚を生き生きと保っていることが大切だと感じています。
自然の変化に気づいたり、美しいものに心を動かされたり、何かに夢中になっていたり。
そうした瞬間にこそ、生きている実感があるように思うんです。
だからこそ、人間が本来持っている、動物的で根源的な身体の感覚を大切にしたいし、呼び覚ましたい。
身体を通して世界とつながり、そこによろこびを見出せることが、僕にとっての健やかな暮らしなのだと思います。
橋倉 誠
プロダクトデザイナー
2004年より NAOTO FUKASAWA DESIGN のシニアデザイナーとして、家電、自動車、家具、生活用品、公共機器など国内外の幅広いプロジェクトに携わる。2018年 MAKOTO HASHIKURA DESIGN 設立。空気感や心地など、目に見えない豊かさをかたちにするデザインを手がけ、プロダクトデザインを起点に、空間デザイン、アートディレクション、企業のブランディングなどへ活動を広げる。多摩美術大学 統合デザイン学科 非常勤講師。iF Design Gold Award 2024 などを受賞。

MALLOW COLLECTION 2026 | &MEDICAL
DESIGNART TOKYO 2026
会場:日比谷OKUROJI[H05]
住所:東京都千代田区内幸町1-7-1 日比谷OKUROJI
会期:10/30 – 11/8
時間:10:00 – 19:00
Design Direction: Makoto Hashikura
Participating Artists: Chizuru Naito, Hikari Hayashi, Mami Yokoyama
Exhibition Design: MAKOTO HASHIKURA DESIGN
Planning & Production Coordination: Sayaka Fujiwara
Organized by: DREAM.inc (&MEDICAL)
